スペースインベーダー大作戦

スペースインベーダー2008

スペースインベーダー2008

CDジャーナルのニュースによると、『スペースインベーダー』30周年記念アルバムが出るというではないか。
内容は、5年前に出た『スペースインベーダー大作戦』に新曲を追加したものだそう。
そのとき私が『remix』に書いた原稿を読み返してみたら、けっこうおもしろかったので再録する。

 1978年(昭和53年)にタイトーが発表した『スペースインベーダー』は、ゲームの歴史を大きく塗りかえ、ひいては世界中のサブカルチャーを震撼させた偉大な作品である。それ以前のゲーム、ブロック崩しやカーレースゲームとの決定的な違いは、「空からの敵が次々とミサイルを撃ってくる」という点だった。味方はいない。暗闇のなか、たったひとりで迫りくる無数の敵を撃破しなければならない。殺るか殺られるか。そこには従来のゲームにはない殺伐とした世界観と麻薬のような快感があり、このゲームに憑かれた人間は「熱中」というよりなかば強迫的にブラックボックスのなかへと100円玉をつぎ込んでいった。


 現在のようにカジュアルなアミューズメント・パーク然としたゲームセンターが存在しなかった時代に、『スペースインベーダー』は「インベーダーハウス」と呼ばれるゲーム施設を誕生させ、デパートの屋上や喫茶店の片隅にも侵略の歩を進めていった。1回100円のプレイ料金は子供には大金であったため、小・中学生によるカツ上げが横行し、学校では「インベーダー禁止令」が出された。『ゲームセンターあらし』の主人公、石野あらしのように所持金を気にせず思う存分ゲームをすることは、多くの子供たちにとっては夢のような話だったのだ。



スペースインベーダー』は、当時としては最新の8ビットCPU、8080を搭載していたが、グラフィック機能には明らかに限界があった。粗いドットで描かれたインベーダーの姿はイラストに描かれた凶暴そうな黒い獣人とはずいぶんと開きがあるが、このあたりのサンリオ的なファンシー感覚・デフォルメ感覚は日本独自のものがある。「かわいい」インベーダーの姿は親しみやすかった。しかし落ちついて考えてみてほしい。「インベーダー」とはつまり「侵略者」である。「かわいい侵略者」というのもずいぶん矛盾した存在だが、この当時の日本は、外に目を向けさえしなければ「侵略」や「戦争」とはほぼ無縁の世界であった。インベーダーの世界観は、『スター・ウォーズ』や『宇宙戦艦ヤマト』に見られるような、ヴァーチャルな宇宙戦争の世界観なのである。当時の世界情勢を振りかえってみると、SALT II(米ソ第ニ次戦略兵器制限交渉)再開、ベトナムカンボジア紛争、エチオピアソマリア紛争、ニカラグア・サンディニスタ革命、イタリア・モロ首相暗殺など、米ソ冷戦構造下の動乱の時代であった。無表情で暗闇から迫りくるインベーダーは、当時の日本人が漠然と抱いていた未来に対する不安感を象徴するものではなかったか。


インベーダーは音楽の世界にも侵略していった。YMOのデビュー・アルバムには“コンピューター・ゲーム〜インベーダーのテーマ〜”という曲がある。テクノ・ポップの祖であるYMOがインベーダーに影響された曲を作るというのは至極妥当なラインとして理解できるが、同時期に世に出まわっていたファニー・スタッフ「ディスコ・スペース・インベーダー」や、マキ上田ビューティペア)による「インベーダーWALK」を聴くと、当時は日本中がどうかしていたのだということがよくわかる。



ジャマイカのダブ・プロデューサー、サイエンティストが81年に〈グリーンスリーヴズ〉から発表したアルバム『Scientist Meets The Space Invaders』のジャケットには、黒い精悍な青年がレーザーガン両手にインベーダーを撃ち落すという珍妙なイラストが描かれている。サイエンティストはインベーダーになにを見いだしたのか。悪徳がはびこるバビロン・システムの象徴か。それともたんにゲームにハマっていただけなのか。
98年にDJスプーキーが〈アウトポスト〉から発表したアルバム『Riddim Warfare』のジャケットにもインベーダーの影響がうかがえる。サイエンティストの時代とは異なり、もはやゲームの主流はアーケードからコンシューマー(家庭用)へと移り、グラフィックも格段に進歩していたにもかかわらず、あえてスプーキーがオールド・スクールなインベーダーをチョイスしたのはなぜか。ドットの粗いグラフィックがもつ凶々しさは、当時スプーキーらが提唱していた「イルビエント」のイメージにぴったりだったのだろう。


今年は『スペースインベーダー』25周年、株式会社タイトー50周年ということで、大々的なキャンペーンが行なわれる。この夏休みには、ストリート・ブランドがインベーダーをあしらった商品を発表し、「インベーダー大作戦〜渋谷ジャック〜」というイベントが開催される。「かわいい侵略者」のグッズを手にした女子高生が渋谷センター街を闊歩する。考えようによっては悪夢のような光景だが、そういった歪みも含め、じつに興味深いできごとではある。


初出:『remix』2003年9月号(一部割愛・修正)

5年前の俺すげー。いまじゃ絶対こんな長文書けない( ;^ω^)


余談だが、マキ上田「あいつはインベーダー」は超名曲!
V.A.『テクノ歌謡 徳間ジャパン編 あいつはインベーダー』に収録されているが、現在入手困難。
機会があればぜひ聴いてみてほしい。