ジミー・ウォング『片腕カンフー対空とぶギロチン』

※初出:『remix』2004年3月号

不肖春日による超不定期コラム、久々の復活。今回のお題は1975年作、ジミー・ウォング監督・脚本・出演、伝説のカルト・カンフー映画『片腕カンフー対空とぶギロチン』です。

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 先日来日したURのアブドゥール・ハックと同席する機会があり、こんな話をした。

春日「『キル・ビル』観た?」

ハック「観た観た」

春日「元ネタの『片腕カンフー』って知ってる?」

ハック「イェー、フライング・ギロチン! あれはクールだよな」

 このように国籍を問わず一部好事家のあいだでは伝説のカルト・カンフー映画として名高い本作。昨年は〈東京国際ファンタスティック映画祭〉で上映され、ジミー・ウォングによる舞台あいさつも行われたのだが、このたびついに国内初DVD化される運びとなった(2月4日発売、キングレコード KIBF-200、税込¥4179)。

 テーマソングはノイ!の“Super”。73年の名作『Neu! 2』に収録されているパンキッシュなロックンロールだ(もちろん当時の香港映画界の慣行にのっとり無断使用)。ジミー・ウォングがなぜこの曲を選んだのかは不明だが、初期衝動全開の“Super”はこの凶暴なアクション映画にハマりにハマっている。ハンマー・ビートと絶叫が飛び交うなか、目が痛くなるビカビカの原色でハイライト・シーンがフラッシュバックする冒頭のシークエンスは、映画史上もっともかっこいいオープニングのひとつだと私は確信している。

 ここであらすじをざっと紹介しておこう。「片腕を切り落とされた武道家の復讐を描いたカンフー・アクション映画『片腕ドラゴン』の続編。暗殺兵器“空とぶギロチン”を自在に操る盲目の老僧と片腕の男による壮絶な死闘が展開する。舞台は18世紀の清朝。山奥で隠遁生活を送っていたフンシェンのもとに、"ふたりの弟子が片腕の男に殺された"という訃報が届く。盲目ながらも無敵の殺人兵器"空とぶギロチン"を操る彼は、片腕の男主催による武術大会に参加する……」

 読んでるだけでまともな神経の持ち主ならば頭を抱えてしまいそうな荒唐無稽なストーリーではある。「A級かB級か」と訊かれたら即座に「B級です」と答えられるようなチープきわまる内容なのだが、そこにはいちどハマったら抜け出せないヤバい魅力がある(ちなみに『キル・ビル』は「惜しくもB級になりそこねた作品」だと私は思う)。

 「タガが外れた」とはこのことをいうのだろう。あまりにも過剰な表現衝動とむき出しのエゴが、いくつかの致命的なマイナス要素をかき消してしまっている。まず第一に、ジミー・ウォングはカンフーができない。「カンフーのできない役者が主演するカンフー映画」というあからさまな矛盾を埋めるべく、ジミーさんは躍起になって奮闘する(ちなみに“カンフーを練習する”という選択肢はない)。常人には到底できない壁歩きの術を披露し(カメラを横にして撮影してます)、一撃必殺の片腕カンフーで(隠したもう片方の腕で腹部が妙にふくらんでます)インド人・日本人・タイ人の連合軍(全員中国人による人種偏見丸出しのコスプレです)と阿鼻叫喚の死闘を繰り広げる。突っ込みどころをあげればキリがないが、このスクリーンをブチ破らんばかりの圧倒的なパワーはなんなのだ。

 今回のDVD化は、おそらく『キル・ビル』効果が大きいのだろうが、ここにきてこの作品に注目が集まっていることじたい、なんとも興味深い。なにせ〈東京ファンタ〉には1000人を超える観客が集まり、冒頭で僧侶が空とぶギロチンを「ジャキーン」と取り出した瞬間、満場の大喝采が沸きあがったのだ。信じられない光景だが本当だ。みんなそれほどまでに初期衝動と荒唐無稽なパワーに飢えているのだろうか。俺は飢えている。

japan.focustaiwan.tw

【追記】

『片腕カンフー対空とぶギロチン』DVD(2004年)の特典映像を見ながらジミーさんを偲ぶ……いやアンタめっちゃ卑怯な勝ち方してましたやん!

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『片腕ドラゴン』のオープニングについて。 アイザック・ヘイズ「黒いジャガー」の盗用であることは言わずもがなだが、例の「ダダダダダッ」のホーン・リフが1拍食い気味に入ってるのよね。

意図せざる変拍子。たぶん編集が雑なだけなんでしょうが。

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