フェラ・クティを開祖とするアフロビートの伝播とワールドワイドな展開については、すごいよなーと思いながら傍観していたが、このニューエン・アフロビートで開眼したかもしれん。
ラテンの官能をアフロビートに溶かし込む卓越した演奏もさることながら、リードヴォーカルのフラン・リ(Fran Ri)のパフォーマンスと立ち居振る舞いが、えも言えぬ美しさ。
Newen Afrobeat - Live In Liverpool (Live Session)
www.youtube.comニューエン・アフロビート&シェウン・クティの「ゾンビー」もすばらしい
Newen Afrobeat & Seun Kuti - Zombie (Fela Kuti)
www.youtube.comフェラ・クティのブロードウェイ・ミュージカルってすごかったんだね🤯
Fela! The Concert - Zombie
フェラ・クティ「ZOMBIE」ゾンビどもよ。行けと言うまで行ってはいけない。止まれと言うまで止まってはいけない。曲がれと言うまで曲がるな。考えろと言うまで考えるな。殺戮せよ。征服せよ。早く進め。ゆっくり進め。敬礼!休め!整列!止まれ!解散!
— つぶ訳@segawax (@segawax) 2025年8月2日
そんなことをつらつら考えていたら、そうだ!
私はトニー・アレンにインタビューしたことがあるんだった。
アフロビートの生みの親。希代のドラマー初来日!
(初出:『remix』2003年12月号)
トニー・アレンは70年代にフェラ・クティのバンドで「アフロビート」と呼ばれるポリリズミックなダンス・ビートを叩き出し、バンドの全盛期を築いた名ドラマーだ。〈ビッグ・ダダ〉のタイとともに待望の初来日を果たしたトニー・アレン・バンドは、〈ラ・ファブリック〉と〈朝霧ジャム〉でエネルギッシュなライヴを行った。
インタヴュー開始前、差し出した本誌を仔細らしく眺めるトニーさん。マッドリブの記事で目が止まっているようだったので「この人はヒップホップをやっているんですけど、ディジー・ガレスピーの縁戚に当たるらしいですよ」と教えてあげたら、「そりゃありえる話だ。なにせいい仕事してるからな、こやつは」と当然のごとく返された。なんだマッドリブのこと知ってるじゃん。そりゃそうか。この人はいまもバリバリ現役でフランスの〈コメット〉を拠点にしてハイブリッドなダンス・ミュージックを生み出しているのだ。そうそう、トニー・アレンの近年の作品を聴きたかったら、先日〈Pヴァイン〉から出た井上薫監修によるコンピレーション『エクスクルーシヴ・トニー』をおすすめする。これはじつにいい。オリジナル・アルバムからの作品をはじめ、ゲスト参加したプロジェクトや、トニーのドラム・サンプルを使った曲まで網羅した、選者の愛がひしひしと伝わってくるじつにディープな盤なのだ。
トニー・アレンは1940年生まれ。もう還暦を過ぎているはずだが、なぜかくも若々しいのか。「さあ、どうしてだろうね。取り残されたくないから、時代と一緒に生き続けているだけだよ」というが、超満員の〈ラ・ファブリック〉でのライヴ・パフォーマンスは、それはもうすさまじいものだった。両手両足から繰り出されるしなやかなビートはブロークン・ビーツの元祖だ。複雑だがビシビシ踊れる。バグズ・イン・ジ・アティック&ウンミが“ゾンビ”をカヴァーした理由がよくわかる。「私にとっては少しも複雑じゃないんだけどね。多くのダンス・ミュージックと同じく4/4ビートだ。だが多くのドラマーは私のドラムを聴くと尋ねるよ、“リズムの頭はどこなんだ?”ってね(笑)。1拍目がスネアとキックの間にあったりするんだが、それが難しいのかもしれないね。私のドラミングには4つのキャラクターがある。それぞれが別の動きをしながら、いちどきに同じ場所へ着地するようなイメージなんだ」
自分のようにプレイするドラマーは見たことがないというトニーさん。「フェラのバンドを去ったとき、私の代わりが見つからず、4人のドラマーを使って交代で叩くことになった。私がひとりで叩いていたビートをね。結局、それもうまくいかず、昔の作品を演奏できなくなったフェラは、新曲を作らざるをえなくなったんだ」
現在、トニーさんはドラマーのための映像ソフトを企画中だという。ドラマーを志す若者は必見である。「CD-ROMやDVDの映像でドラミングのレッスンを教えてみたい。譜面や文字では伝えきれないからね。私のトリックやテクニックを若いドラマーたちに伝えたいんだ」
フェラ・クティ・バンドで活動していた時期の話になると「フェラとはいろいろあったよ……」と遠い目になるトニーさん。いろいろあったんでしょうね、実際。気苦労お察ししますよ。と思っていたら「ブーツィー・コリンズがいた頃のジェームズ・ブラウンのドラマー(編注:おそらくクライド・スタブルフィールド)を何度か観たことがあったけれども、あんなふうに単純なリズムをずっと叩けって言われたら、私はドラマーを廃業するね。あれならドラム・マシンのほうがよっぽどいい」なんて大人げない発言も。いいッスね、トニーさん! ああ、そういえばバグズ・イン・ジ・アティックの「ゾンビ2003」はまだ聴いてないって言ってたな。今度送ってあげようっと。
(春日正信)