90年代末のドラム&ベース


私が編集に関わったremix別冊『Junglist Handbook』(96年)。


fuckin’ beautiful
http://d.hatena.ne.jp/cinematic/20090927/p1


id:cinematicさんの「ドラムンベース不遇の時代に何が起こっていたか」という記事を読んだ。
ここ(『remix』休刊)でも書いたが、私は96年から97年に『remix』で編集者としてジャングル/ドラム&ベースを担当しており、その後もフリーのライターとして雑誌の記事やCDのライナーノーツでクラブ・ミュージックについていろいろ書いていた。cinamaticさんがちらっと触れている「D&Bをメディアで持ち上げた」張本人でもある。こりゃなんか書かにゃと思い、ひとまず要点を箇条書きにしてみたんだが長くなりそうだこの話……。


とりあえず前回(インディ・ダンスとかヒップ・ハウスとか)の続きから入ろう。いま調べたらファイヴ・サーティの『Bed』って91年なのか。インディ・ダンスの次に私が夢中になったのはアシッド・ジャズやヒップ・ホップだった。ア・トライブ・コールド・クエストの『The Low End Theory』が92年。ガリアーノ『A Joyful Noise Unto The Creator』や、忘れちゃいけないビーツ・インターナショナル『Excursion On The Version』も92年か。ノーマン・クックがその後なんでああなっちゃったのかは昔からの謎だ。ビーツ・インターナショナルのほうが何百倍もいいじゃん。それはともかく、なんとまあ豊かなミュージック・ライフを過ごしていたことよ。
続いて93年にはテクノ、94年にジャングル/ドラム&ベースとの衝撃的な出会いがあり、個人史的にはバンドからDJに転向、その後ジャングル好きがきっかけとなり『remix』に就職するなどいろいろあるのだが、たぶんそれを書いてるとおそろしく長くなってしまうので、今回は90年代末のドラム&ベースの動向に絞って書くことにする。


cinematicさんは「不遇」の理由を3つ挙げている。

(1)D&Bコンピの粗製濫造
(2)2ステップ/UKガラージの台頭
(3)ブロークン・ビーツの台頭


(1)に関しては「そんなにひどいのあったっけ?」とも思うが、当時私は東京で毎日のように足しげくレコード屋に通ってはD&BのレコードやCDを物色していたのでcinematicさんとは印象が違うのかもしれない。むしろ粗製濫造だったのは『Jungle〜』と銘打ったコンピが氾濫していた93〜94年頃という実感があるのだが(でもそういうのもいま聴きなおすとけっこうおもしろかったりする)。
(2)(3)はそうかも。2ステップとブロークン・ビーツの登場で、ドラム&ベースは「最新の」ダンス・ミュージックではなくなってしまった。メディアというのは最新の流行を追っかけるものなので、この時期ドラム&ベースに分が悪かったのはたしかだろう。


さらにつけ加えるなら、もうひとつの理由として、メジャー・レーベルによるアーティストの青田買いが相次いだことが挙げられると思う。
ゴールディーに続けとばかりにフォーテック、アレックス・リース、グルーヴライダー、DJラップ、アダムF、ボイメランらがメジャーからアルバムを連発したが、もともとアンダーグラウンドなダンス・ミュージックであるドラム&ベースをCDアルバムのフォーマットにパッケージするのは相当に難易度の高い作業で、たんなるトラック集になってしまったり、途中で息切れしてしまう作品も少なくなかった。


私がこの時期からいまひとつドラム&ベースをおもしろがれなくなった理由は、おもにリズムの平板化にある。
初期のジャングル/ドラム&ベースのリズムは「レゲエ+テクノ+ブレイクビーツ」という形容がふさわしい複合的リズムだった。代表的なのはやはりこの曲だろう。

Roni Size - Timestretch (1993)


ちなみに当時大好きで、レコードを売ってしまって後悔しているのがこの曲。

Blackman - Bastards (1994)


乱れ打つドラム、ほどよく下品なベース、レイヴ/ハードコア仕込みのシンセ使いといい、まさに「ジャングル」って感じ。完璧!

Dillinja - The Angels Fell (1995)


私が大好きなジャングル/ドラム&ベースのリズム・パターンで、勝手に「3・3・2のリズム」と呼んでいるものがあるのだが、前述の「Bastards」や、この曲の中盤で聴けるリズムがそれ。ダンスホール・レゲエと同様に1・4・7泊目のキックで1小節を分割する、口三味線でいうと「ズンガ・ズンガ・ズズ」というポリリズミックなもの。厳密にはポリリズムではないが4/4拍子のフォーマットでは極限までポリなリズムだと思う。


ドラム&ベースが普及するにつれ、複雑でゴツゴツしたポリリズミックなビートよりもシンプルなファンク・ビートが好まれるようになっていった印象がある。何本もブレイクビーツを重ねるよりも一本のビートをスムーズに反復し、音響的にも洗練された作品が増えていった。個人的にはポリリズミックなビートに固執していたJマジックの98年頃までの諸作や、ときに踊れないぐらい凝ったリズムのトラックをリリースしていた〈リインフォースト〉レーベルの音が好きだったが、踊りにくいリズムは徐々にフロアから後退していったように思う。


あと日本にはこの文化を受容するためのあるものが決定的に欠けていて、それは明確に漢字二文字で断言できるんだけど、なんかいろいろうるさそうなので言わない○Oo。―y(´▽`*)


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